013木材の含水率 〜1999.5 住宅建築〜
家造りの会/松沢静男、徳井正樹、半田雅俊
以前室内環境汚染問題をこの町場技術探検隊で調査したことがある。
自分達の設計監理した住宅のホルアルデヒドやVOCの気中濃度測定を行ったが、汚染対策をしていなかった家ではかなりの高濃度であった。
それ以来、室内汚染対策の一つとして、積極的に無垢材の使用を進めてきた。ところが、無垢材を使ってみるとそれなりの問題点が発生してきた。それは乾燥収縮による狂いや割れの問題である。せっかく無垢材を使うのであれば、真壁にして柱を見せたい。見せるのであれば外材ではなく、国産材を使いたい。
ある現場で、サッシを外付けのアルミ引き違いにし、連窓になる箇所があったので、柱の背割りを外側に向けた。ところが、サッシ取り付け後、乾燥収縮にがおき、サッシの上下は内法材が柱間についているので開かないが、柱の中央部分が開き、外部からみるとサッシが鼓状になってクレッセントが掛からないほどになってしまった。内法高2mのサッシの中央部分で1cmも狭くなっていたのだ。
床材も合板のフローリングではなく、昔ながらの杉や桧の無垢材を使いたい。
杉の床は安価で、冬は暖かく、夏は足の裏の湿気を吸ってくれるのでサラサラ感があり、感触が柔らかいのでとても気持ちがよい。ところが張った時はピッタリ隙間無くできていたのに、一冬過ごすとサネがはずれるほどガタガタになってしまったり、逆に床暖房対応品の堅木の無垢材を張ったところ、梅雨時期に膨らんで床が盛り上がってしまった例などを見聞きした。
木造が好きな設計者、施工者は多いが材の含水率や収縮についてしっかりとした知識を持っている人は案外少ない。葉枯らし乾燥をした材を乾燥材だと誤解している設計者は意外と多い。流通期間が早くなり工期は短縮され、工法も変わりつつある現在では、大工の知恵が頼りにならなくなってきている。木造に携わる設計者として、含水率の知識は不可欠と感じて、木材の含水率について探検することになった。
乾燥の必要性
伝統工法は生材を活かす工法昔の大工は木を枯らしてから使っていたといわれている。しかし枯らすといっても現在問題にしている平衡含水率まで乾燥していたわけではない。平衡含水率まで乾いた材は強度は上がるが、粘りけが無くなり、無理をすると割れてしまう。
大工が乾燥材は弱いということがあるが、その原因は強度ではなく粘りけの欠如によることが多いようだ。生材は柔らかく柔軟性があるので、堅い仕事をしても材が割れにくいのである。
伝統的な大工の技は、木が乾ききる前に材の性質を見抜き、組み上がってから仕口や継手が乾燥収縮に伴いしっかり固定するよう工夫されていたといえる。木裏木表を読み、反る方向を考えて、敷居は木表が上、鴨居は木表を下に使ったのある。日本の伝統的な大工の技は、カビを発生させない程度の生材(乾燥しきっていない材)の性質をうまく利用した工法といえる。工法の変化、工期の短縮と暖房の普及・・・・伝統的な内外真壁造の場合、構造材に収縮が起こっても大きな問題は起らない。工期があればチリ切れも埋めることができた。上棟後仕上げまでの間に乾燥期間があれば問題は少ないのだが、現在ではそんなに時間の余裕のある現場はほとんどない。
大壁の場合、構造材の収縮は内外壁の合板、ボード類とのずれを生じさせ、大きな問題となる。含水率30%の梁成30cm米松は、平衡含水率まで乾燥すると約1cm縮んでしまうことがある。通柱、尺梁、管柱が混在した軸組では梁の収縮によって管柱が浮き、通柱に加重が集中して横力を受けると通柱が折れやすくなることも考えられる。上棟時にしっかり締めたはずのボルトが、竣工時にはガタガタになっているのは日常的に起こっている。仕上げにおいても構造材の収縮は、クラックやクロスのシワの原因となる。暖房の普及により、新築直後の乾燥が進みやすく、室内の平衡含水率は10%を切ることもある。その分木材の収縮幅は、より広くなってるのだ。
探検開始
原木の伐採現場から国立林業試験場まで国産材に関わるそれぞれの段階を訪ねてみた。資料による知識以上の木材の乾燥に関わる現実が見え、とても参考になった。
探検先
素材生産、製材 :上州林業
群馬県碓氷郡松井田町/梁材、板材の生産、簡単な冶具によるR修正材
の生産なども行っている。
製材、人工乾燥 :小林材木店
群馬県高崎市/内地材を主に製材している県内では大きな製材所。乾燥機1機
木材加工人工乾燥:協同組合エルク
長野県小県郡東部町/板材を主とした木材加工工場。 乾燥機6機
木材市場:中央木材市場
東京都江東区新木場/材木問屋19社が出店している大規模な木材市場
研究所:森林総合研究所
茨城県筑波学園都市/日本唯一の国立林業試験場
乾燥材の需要と普及
建築用材の人工乾燥は、以前から付加価値のつけられる檜などの高級な役物や造作材などで行われてきた。
最近は安価な一般材や梁桁用材も乾燥材が求められている。これは未乾燥材の使用によるトラブルが増えてきているためである。このためハウスメーカーでは、構造材も含めて安定した集成材へ急速に移行している。ところが一般の大工、工務店からは乾燥材の要求は、ほとんどないのが実状である。
大手と小規模な工務店とでは、相当な温度差がある。しかし、これからは住宅性能保証が問われることになり、今後ユーザー側の要求はますます厳しくなる。一般の工務店や設計者も対応を迫られていることは間違いない。
乾燥コスト
杉の場合、輸入材や集成材など他の競合品とバランスから考えると、市場許容価格は1m3あたり1万円位と言われているが、現実的には、歩留まりまで計算すると倍以上かかっているのが現状のようだ。乾燥にかかるコストには設備費、燃料代などの他に、乾燥による材の歩減り、割れや狂いによる歩留まりが結果的にコストに大きく影響することになる。
天然乾燥と人工乾燥
従来建築材の乾燥はほとんど自然の乾燥によるもので、特に乾燥について意識しないことが多かった。天然乾燥と人工乾燥の関係は互いに補完関係にあり、どちらがよいというわけではない。うまく組み合わせて使うことによりコストの低減、性能向上がはかれる。天然乾燥の利点としては、自然な乾燥であり、ゆっくり乾燥させるので、材に無理がかからない。機械設備が不要、設備費、燃費などのコストがかからないことがある。問題点としては、時間がかかる。保管場所が必要、含水率を下げきれないなどがあげられる。暖房した建物では、天然乾燥しただけの材では対応しきれなくなっている。
人工乾燥の利点は、天乾より早くできる。割れ、狂いを制御できる。含水率の調整ができる。特に人工乾燥によって過乾燥した材の方が天然乾燥したものより平衡含水率が低く安定し(履歴現象)、寸法変化が少ない。
人工乾燥の問題点としては、機械設備が必要なのは当然として、歩留まりをあげるには結構技術と経験がいるようだ。経験が少ないと乾燥割れ、材の落ち込み、狂い、材の変色など、材が変質することもある。
含水率の目安
JASの針葉樹構造用製材では含水率 25%のD25も乾燥材として認められているが、竣工後の平衡含水率が10%を下回ってしまうこともあり得るので、せっかく乾燥材を使ったのに狂ったといわれないためにも、仕上げをする段階までには、20%を切るように努力したほうが良さそうだ。特に二階床梁は、収縮による構造的欠陥を防ぐため、乾燥材を使うことをお薦めする。板材は、薄いので天然乾燥でも比較的早く乾くが、施工後の収縮を考えて含水率は厳しく監理する必要がある。寸法変化を小さくするには、人工乾燥によって予想平衡含水率より低めに乾燥しておくとよい。
材の寸法
乾燥させると材が縮むので105角の乾燥材を生産するには、112角の生材から生産するのだそうだ。仕上103角でもよければ105用として普及している108角から生産することが出来、割安になるそうである。(材積が減った分を購入者が負担することになる。関西ではこのサイズもあるようだ。柱のサイズに関しては乾燥とは別の問題として、120角と表示されている物には、120ピッタリの他に、123角、125角など生産地によって様々なサイズがある。これには削り代分あるいは、大は小を兼ねるおまけ的な面もあるが、本音としては小さく加工すると節がでる確率が高くなり、商品価値が落ちてしまうこともあるようだ。内外真壁の場合はこれでもよいが、これからは内地材も寸法を統一する必要がある。
杉の乾燥
杉は檜などほかの樹種に比べて生材の含水率が高く、個体差によるばらつきが大きい。中には含水率が200%を越えるものもあり、水分の移動が悪いなど、杉の特性から、心持ち材の乾燥は簡単ではない。また、材積単価が安いので乾燥コストが乗せきれず、人工乾燥が進まない点もある。
しかし、梁材が取れる丸太の供給量は身近にかなりあり、以外に入手やすい。柱を杉の化粧にするなら、梁も米松ではなく、是非杉を使いたい。年月の経った杉の風合いは落ち着いていてとてもよいと思う。ただし、受注後丸太から挽くことになるので、乾燥材は無い。人工乾燥には時間とコストが掛かるのが実状である。
葉枯らし乾燥は乾燥の前処理である
葉枯らし乾燥とは伐採後、一定期間樹頭に枝を残したまま林内に放置し、葉からの蒸散作用によって含水率を下げる方法である。重量の軽減により搬出を容易にさせ、芯材の色艶も良くなるとされている。葉枯らしによって辺材の含水率は下がるが、心材の水分の低下は少ない。全体として含水率を半分ぐらいに下げることができる。 データによれば杉の場合、葉枯らし後でもまだ60%以上の含水率があり、収縮し始める繊維飽和点(約30% )まではかなりの差がある。人工乾燥をする場合は、乾燥日数低減に役立ち乾燥コストを下げることができる。
杉は特に初期含水率が高いので乾燥の前段階として有効である。
木材の水分量
含水率の表し方/木材の含水率は全乾材に対する水分量で表す。 全乾材とは含水率0%のこと。100〜105℃で材を乾燥させ、水分が全くなくなった状態をいう。
木材の収縮と含水率の関係
結合水と自由水/自由水とは細胞内胞や細胞壁の隙間にある水で、乾燥が始まると自由水から減ってゆく。自由水が減っても重量が減るだけで材の性質形状に影響はない。自由水が無くなり繊維飽和点(含水率30%位)まで乾燥が進んで結合水が減り始めると収縮が起こり、材の性質も変化する。
木材は含水率が、繊維飽和点(約30%位)以下に下がると収縮が始まる。
平衡含水率
木材は周囲の環境変化に応じて、放湿吸湿する。一定の温室度下の元 で吸湿も放湿もしない平衡状態が、平衡含水率である。平衡含水率は 樹種による違いはほとんどないが、地域や季節によって変化する 日本での年平均平衡含水率は15%程度といわれているが、地域差は 大きい。平衡含水率に達している材を気乾材という。
材の収縮率
実際の材には厚みがあり、平均含水率が30%以上であっても表面は30% を切っているので収縮が始まっている。内部が乾燥する際にはすでに 乾燥が進んでいる周囲が突っ張って収縮が押さえられる。収縮率は材の方向、樹種、個体差によって異なる。
収縮幅の予測
「地域別平衡含水率の幅の図」、「温度湿度と木材の 平衡含水率の図」から平衡含水率を推定し、材の含水率を測定 して「含水率と収縮率の関係の図」から収縮率を想定すれば、材の 収縮幅をある程度推定できる。材の樹種や特性によって収縮率は異なる が、杉、檜の接線方向の含水15%までの収縮率は、3.5%程度とされ ている。
含水率の測定
正確に含水率を測定するには、切り取ったサンプルを 完全に乾かして測定しなければならない(全乾法)。そんなことは 実際には行えないので携帯型の測定器が用いられる。電気抵抗式、 高周波の物がある。高周波式は材に当てるだけで簡単に測定でき、下記の3社の測定器が(財)日本住宅・木材技術センターによっ て認定されている。(株)ケット科学研究所、ソフー(株)、(有)機械産業使用する材の含水率を知ることが大切である。 木造の現場監理に携わる人には、材の含水率を自分で測定する事を是非お薦めする。最後に建築材の含水率の目安を示す。 構造材:20%程度 造作材:15%程度床暖をするフローリング:10%程度
●参考資料
『木材活用事』
木材活用事典編集委員会篇/産業調査会事典出版センタ−
『建築に役立つ木材・木質材科学』
今村祐嗣、川井秀一、則元京、平井卓郎編著/東洋書店
『棟梁も学ぶ木材のはなし』
上村 武著/丸善
『木材のおはなし』
岡野 健著/日本規格協会
『木材の人工乾燥』
日本木材加工技術協会
『林業技術1997.2.NO659』
日本林業技術協会
『スギ葉枯らし乾燥』
徳島県木材共同組合連合会、徳島県
『木材は乾かして使う』
鷲見博史著/産調出版
『コンサイス木材百科』
秋田県立短期大学、木材高度研究所編/財団法人秋田県木材加工推進機構